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・事例 2:テーマ「セクショナリズム」

ディスカッションプロセス:
オリエンテーションの結果を踏まえ、以下のメンバーにてオープンダイアローグを実施(約2時間)。
クライアント(クラ): B社 社長
コーディネータ(コー): 心理カウンセラー
オーディエンスA(オA): 会社員経験者
オーディエンスB(オB): 企業経営経験者、心理ファシリテータ

【オープンダイアローグ実況(一部)】

コー: 今日は、お時間いただきありがとうございます。
クラ: こちらこそありがとうございます。
コー: オリエンテーションの内容を拝見させていただきましたが、今回は組織の在り方ついてという理解でよろしいでしょうか?
クラ: はい、まぁそういうことですね。
コー: では、現在社長が考える組織の問題についてお話ししていただけますか?
クラ: そうですね。組織の問題というか、まぁ、会社全体が硬直しているという言い方が適切かもしれませんね。
コー: 「会社全体が硬直」ですか。。もう少し詳しく教えてもらえませんか?
クラ: はい、当社は、先代である私の父が45年前に創業しバブルの波に乗って急成長した会社です。バブルで急成長と言っても、創業間もなかったため、バブル崩壊の影響も少なく、もともとビジネス向け印刷がメインということもあり、バブル後も堅調な成長を遂げました。しかしながら、IT化が進み、企業の中の印刷物が減ってきたことと、印刷業務の海外転換などの低価格化も進み、20年ほど前くらいから、だんだんと厳しい状況になっていったことも事実です。さらにはこの10年くらいは安価なネット印刷が普及し、我々の商業印刷領域に進出してきて、大きな脅威になっています。
そこで、従来型の印刷業務に頼っているのは経営リスクが大きいと判断し、インターネット事業にも手を出したりしているのですが、なかなか成果が出ないのが現状なんですよね。
コー: 従来から主業務であった印刷業務が頭打ちで、新規事業もなかなか軌道に乗らないという状況なのですね。
クラ: はい、そういった経営環境なので、全社一丸で現状打破をしていかないといけないわけですが、どうもそうならないのがうちの会社なんですよね。
コー: そうならないとは?
クラ: 印刷業は、良くも悪くも職人気質なんですよね。自分の仕事に誇りや責任を持つのはいいことなんですが、時にそれが事業推進を妨げるのですね。新しい方法を導入するときとか、業務の幅を広げる必要があるときなどの、なんというか、抵抗が激しいのです。「自分は、いままでやってきたことを変えるつもりはない」なんていうことを、堂々と公⾔する社員とかもいて、そうなるとほかの社員にも悪い影響がでたりするんですよ。
コー: なんとなくわかりますね。
いままでどういった取り組みをされてきたのですか?少し具体的に教えていただけませんか?
クラ: はい、いろいろやってきたというか、やりたかったけど、うまくいってないという感じですが。。
まず、新規事業としてインターネットサービスを始めました。
具体的には、企業のWebサイト開発を中心に、販売サイトやプロモーションサイトの開発を手掛けようと考えています。
そのビジネスに関してのうちの最大の強みは、やはり顧客を持っていることです。
印刷事業を通して、顧客の企業数が多いことと、業務内容からその会社の事業内容をよく把握しているわけです。ですからお客様としてもおそらく安心して仕事をご依頼いただけると考えました。
もう一つの強みとしては、ノウハウがあることですね。
印刷事業は、輪転機回すだけでなく、その前段階でデザインや原稿つくりといった開発工程があるわけです。もちろん紙とネットとの違いはありますが、そこで培ったノウハウは、新事業にも大きなメリットになるはずなんです。
ところが、ネットがらみの話になると、どうも協力的でないというか、むしろ足を引っ張りあうこともあるくらいなんですよね。
コー: 足を引っ張り合うですか! いったい何が社員たちにお互いの足の引っ張り合いをさせているんでしょうかね? 
クラ: なんでしょうね、まぁ、意地というか。。自分の手柄にならないと思うのかな?
コー: そうですか。「手柄にならない」が足の引っ張り合いをさせているというわけですかね? 
クラ: 必ずしもそういうわけではないと思うんですけどね。
まぁ、インターネット事業は、若手営業を中心にプロジェクトチームを作っているんで、自分たちとは別の仕事という意識が強いんでしょうね。

コー: ありがとうございます。ちょっとここでいったん中断させていただきオーディエンスの皆さんにご意見お聞きしますね。(オーディエンスの)皆さん、なにかありますか?
オB: そうですね。インターネット事業の若手チームが、社内の中でどういう位置づけられているか知りたいですね。あと、開発部門がインターネット事業に抵抗するのが、私としては理解できないですね。だってそれも仕事なわけですよね。
オA: 長年続けてきた仕事を変えるのは、やはり抵抗があるでしょうね。そういう意味で、社長肝いりのプロジェクトチームというのもちょっと気に入らないのかもしれませんね。

コー: ありがとうございます。では、若手チームの社内での位置づけを教えていただけませんか?
クラ: はい、プロジェクトチームと言っても、中堅社員のリーダー以外は、基本的には3つある営業課の兼任です。営業各課から若手1名がメンバーとなり、リーダーのサポートをうけながら、各課のお客様にインターネットサービスを売り込む感じですね。そうすることで、売上数字は各課に入るので、いいかと思ったのですが、どうも課によってインターネットサービスの売り込み方にも温度差が出ている状況なんですよね。
コー: 温度差があるわけですね。その温度差の原因ともいいますか、温度差を生んでいるものをひとことで言い表すと、どんな言葉になるでしょうかね? 
クラ: 温度差を生んでいるものですか?うーん、なんだろうなぁ。
コー: 申し訳ございません。私たちのカウンセリング手法の一つなんですが、時々わかりにくい言葉を使うときがありますが、お許しください。
クラ: はー、まぁそうですね。温度差の原因かぁ。。
やっぱり、人によって、というより課長やベテランによくあるんですが、目先の数字を優先してしまうんですよね。まぁ、「よくわからない仕事していないで、いつもの注文取ってこい」みたいなね。そうなると、プロジェクトチームのメンバーもやりにくいですよね。あと、プロジェクトチームのリーダーが各部門の顧客にアプローチしようとしても、担当営業とかは、面白くないわけですね。「自分の顧客に手突っ込んできた」みたいになるわけですよ。そうなるとリーダーが新規営業するしかないのですが、それではウチの強みは生かせませんよね。
コー: 強みが生かせない、強みが生かせる御社の営業手法とは、どんなことなのですか? 
クラ: さっきも言った通り、顧客数とノウハウですね。
顧客が多いということは、それなりに信頼されているわけですし、信頼の基本にノウハウがあると思うわけですよ。
コー: その顧客とノウハウが新事業に生かされないわけですね。
クラ: そうなんですよね。やっぱり営業なんで、数字の意識が強いのかなぁ。ウチの会社は、営業はひとつの課で売上5000万円というのが、伝統的にあって、そこへのこだわりが、ベテランになればなるほど強くなるんですよね。
コー: 1課5000万円のノルマへのこだわりですね。その「こだわり」は、ベテラン社員たちをどんなふうに縛りつけているのですか? 
クラ: しばりつけているというか、ようはウチのおやじのこだわりなんですけど、それがベテランなればなるほど耳から離れないというか。。
言い方悪いですが、「売上5000万円必達できない課長はクビだ」みたいなことは、いまでもおやじからぽろっと出てきてしまったりもするんで。。
だから、みんな、ノルマ必達を最優先してしまうんですよね。
コー: 会長のそのこだわりは、会社の未来をどのような方向に向かせると思いますか?
クラ: 硬直化ですね。もうすでにその兆候が出てきてしまっていますが。。
だから早く手を打ちたいんですけどね。新事業の組織横断的チームも、私なりに経営者として、全社数字や将来の布石という考えがあっての施策ですが、親父にとっては、いままでのやり方で成功してきたという自負があるんですね。やっぱりそこは譲れないみたいで、何も言わないと言いながら、ついぽろっと出てしまうんですよ。そうすると、ベテラン社員は、どうしてもおやじのいうことを優先するようになりますよね。かなりのワンマンだったわけですし。まあ、私にとってはそれも頭が痛いことなんですが。

  ※ 中略
その後、新事業の状況や、開発部門の態度などを詳細に話してもらう

コー: 御社は、主に営業部門、開発部門、印刷部門の3つに分かれているんですよね。
印刷部門については、どうなんですか?
クラ: 印刷部門は、いわゆる職人さんが多い部門ですね。まぁここもなかなか厄介な問題を抱えていますね。
コー: やっかいといいますと?
クラ: 実は、印刷と言ってもいろいろな種類があって、ものによっては、自社でやるより外注したほうが安かったりするわけですよ。で、先ほど、価格が厳しいというお話ししましたよね。他社は、海外工場を持ったり、ネット印刷にシフトしたりして、正直言って、ウチとは比較にならないコストダウンを図った会社もあったりするんですよね。また、ウチの設備もかなり古くなっているんですが、設備投資をするより、外注化を進めたほうが利益効率は良くなるんですね。
私としては、一部の定期印刷物以外はすべて外注化するという方針を立てたんですけど、まぁ、現場の抵抗は激しくて、なかなか実現していない。
そうなると、コストは上がるし、キャパは減るし、納期は遅れるという状況になってしまって、逆にお客様に迷惑をかけるなんてこともあるわけです。
コー: なるほど、なかなかむつかしいところですね。どんなことが、現場の抵抗に力を貸しているのでしょうか? 
クラ: あからさまに抵抗しているわけではないんですが、ようは職人さんなんでね。自分の仕事にこだわりがあるというのと、いままで輪転機回してきた人が、手配の仕事になるわけなんで、新しいことへの拒絶反応なんかもあるとおもいますね。あと、やっぱりおやじの代から、「自社工場へのこだわり」というのがあって、みんなそれを誇りにしてきたというのはありますね。それがうちの売りでもあったしね。

コー: ありがとうございます。ちょっとここでオーディエンスの皆さんにご意見お聞きしますね。皆さん、なにかありますか?
オA: 社員の皆さんは、社長のことどう思っているんでしょうかね?
私だったら、大変失礼ながら、「現場を知らないやつ」みたいに思ってしまうかもしれませんね。あと、会長さん、お父様ですよね。会長と社長との意見が違う場合、どうしても会長のほうに視線は行ってしまうもんですよ。失礼ないいかになりますが、私も会社員だったので、だれが権限を持っているかというのはかなり敏感でしたね。

コー: 企業経営のご経験があるBさんはいかがですか?
オB: 経営効率を求めるのは経営者として当然だと思いますね。
社員はどうしても、会社の利益と自分の利益を分けて考えてしまいますよね。
私も「会社がもうかれば、社員も幸せになる」って社員に言ったりしますけど、実際のところ、みんなピンと来てない感じですからね。
オA: そりゃ、人によって価値観というか優先順位が違いますからね。
給料上がることよりストレスがないことを選ぶ方もいますし、みんな仕事のモチベーションや会社への思いは同じではないと思いますよ。
オB: そうですね。経営者は、社員のため、会社のためと思っても必ずしも社員はそう思っていないのかもしれませんね。
ただ、御社の場合、社員の会社への愛情はかなり強いかもしれませんね。

コー: なるほど、経営者、社員それぞれの立場でのご意見ありがとうございました。
会社への愛情という言葉が出ましたが、社長は、社員の方の会社への思いをどうとらえてますか?
クラ: うーん、実際は文句ばっかり言ってますね(笑)
まぁ、でも。。なんだかんだ言ってベテランの方々は、みんな会社が好きなんだと思いますよ。好きだからこそ抵抗する、みたいなね。良くも悪くもおやじの家族経営が、社員には心地よく浸透しているんだろうな。ウチの会社の成功体験だしね。
そういう意味では、彼らからしたら、私は破壊者みたいに映っているのかもしれません。寂しいけど。。

※ 以下、省略
この後、社員の抵抗の内容や会長との関係性などをお聞きして終了

明らかになった問題:
1. 会社の体質
⇒ 変化を嫌う、数字至上主義、ワンマン経営など

2. 社長への不信感と反発
⇒ 上から目線、経営手法の押し付けなど、素直に合意できない雰囲気をだしている

3. 社長と会長との関係性
⇒ 社長と会長の方針不一致が社員に迷いや不信感の原因

問題解決のための提言&ディスカッション:
1. 社員とコミュニケーション強化
2. 経営方針の一本化
3. 評価システムの見直し

B社とのアセスメント結果として、上記の問題と提言を社長に提出。その後、二次アセスメント(ディスカッション)を行い、社長の考えを明確化し、経営施策の判断を促した。


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